成年後見制度が大きく変わる!2028年施行予定の改正ポイントと実務への影響を解説
- 5月27日
- 読了時間: 10分
「成年後見制度は不便だ」
「一度始めたら、本人が亡くなるまで終わらない」
「専門家への費用が亡くなるまでずっと発生して高い費用がかかる」
こうした不安や不満の声は、相続や認知症対策の相談現場でも長年聞かれてきました。2025年時点で認知症の高齢者は約600万人以上と推計されていますが、実際に成年後見制度を利用しているのは約24万人(利用率は約4%)にとどまります。これまでは、どうしても「使いにくい制度」という評価が定着していました。
しかし、2000年に制度が始まって以来、約25年ぶりとなる「抜本的な大改正」が迫っています。
2026年1月に法制審議会で改正要綱案が取りまとめられ、同年4月3日には政府が民法改正案を閣議決定して今国会(衆院)へ提出しました。国会での審議や準備期間を経て、2028年頃(2028年夏〜秋頃)の新制度スタート(施行)が見込まれています。
この記事では、現行制度が抱えていた問題点から、改正の具体的なポイント、実務や他の生前対策(家族信託など)への影響まで解説していきたいと思います。
1. そもそも成年後見制度とは?
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などによって「判断能力が不十分な方」を法律面から支援・保護するための制度です。家庭裁判所から選ばれた「後見人」などが、本人に代わって財産の管理や各種契約行為を行います。
現行制度では、本人の判断能力の程度に応じて、以下の3段階(3類型)に分かれているのが特徴です。
後見(判断能力を欠く常況にある方)
保佐(判断能力が著しく不十分な方)
補助(判断能力が不十分な方)
なかでも最も重い「後見」では、弁護士や司法書士などの専門職が後見人に就くことも多く、いわば「本人の分身」として非常に強い権限を持ちます。財産管理や各種契約に関する包括的な代理権が与えられるほか、日用品の購入以外に対する広範な取消権(本人が勝手にしてしまった不利益な契約をなかったことにできる権利)を行使して、本人の法律行為を保護する仕組みになっています。
2. 改正の背景:現行制度が抱える5つの課題
今回の抜本的な見直しの背景には、現行制度が長年抱えてきた「5つの大きな課題」があります。
さらに、2022年10月に国連の障害者権利委員会から日本に対し、「本人の意思決定を他人が代行する制度(後見制度など)を廃止する観点から、民法を改正すること」という総括所見(勧告)が出されたことも、今回の改正を大きく後押ししました。
課題①:終身利用が原則(一度始めたら終わらない)
「遺産分割協議のため」「実家(不動産)を売却するため」といった一時的な目的で申し立てたとしても、本人の判断能力が回復しない限り、途中でやめることは基本的にできません。生涯にわたって制度を利用し続けなければならないため、事務負担や費用の発生が続き、利用をためらう最大の原因になっていました。
課題②:類型が硬直的で、本人の権利が過剰に制限される
一度「後見」が開始されると、包括的な代理権・取消権によって保護される半面、本人の自己決定権が必要以上に制約されてしまいます。個別具体的な事情や「本人が自分で決めたいこと」が反映されにくい硬直的な仕組みでした。
課題③:報酬の負担が重い
専門家が後見人に就任した場合、本人の財産から月額2〜3万円程度の報酬負担が生涯にわたって続きます。なお現行法では、報酬額は家庭裁判所が本人の財産額を基準に個別に決定していますが、実際の仕事量から見て不当に安価であったり、無報酬で対応せざるを得ない実務家も一定数存在したりと、担い手側の不均衡も課題でした。
課題④:後見人の交代が困難
本人の死亡や著しい不正、健康上の理由など、限られた合理的な理由がない限り、途中で後見人を変更・解任することは極めて困難です。「対応が不誠実」「業務が怠慢」といった不満があっても簡単に交代させられず、家族が泣き寝入りするケースもありました。また、一度解任されると「欠格事由」に該当し、その専門家は他の後見案件もすべて解任されてしまうため、裁判所側も解任判断に慎重にならざるを得ないという構造的な問題もありました。
3. 改正案の主なポイント(5つの変更点)
新制度では、これまでの課題を解消し、「本人の自己決定権をより尊重し、ニーズに応じて柔軟に使える制度」へと生まれ変わります。
① 3類型を「補助」に一本化(包括的代理権の廃止)
現行の「後見」「保佐」「補助」という区分を廃止し、すべて「補助」に一元化(一本化)します。最初からすべての法律行為に包括的な権限を与えるのではなく、本人の福祉的ニーズに応じて「遺産分割」「不動産処分」など、代理できる行為を必要な範囲だけで個別に定める「オーダーメイド方式」に変わります。
項目 | 現行制度(後見) | 改正後の新制度 |
制度の分類 | 3類型(後見・保佐・補助) | 「補助」に一本化 |
権限の範囲 | 包括的(すべての法律行為) | 必要な範囲に限定(個別設定) |
② 終身制の見直し(途中終了・期間設定が可能に)
本人の判断能力が回復しない場合であっても、家庭裁判所が「もう後見の必要がなくなった」と判断すれば、途中で利用をやめられる規定が新設されます。たとえば「遺産分割が完了した」「不動産の処分が完了した」といった目的が達成された時点で終了できるようになります。また、あらかじめ利用期間を定めておき、期間満了時に終了する仕組みも検討されており、必要な場面だけスポット利用できる「終わりのある後見」が実現します。
③ 「特定補助」の新設
判断能力が著しく低下している方を保護するための、例外的な仕組みとして設けられます。不動産の売却といった重要な財産行為に限って取消権を持たせるなど、特に重要な行為に絞って本人を保護する設計です。
④ 後見人の交代を容易に
これまでの「辞任」や「解任」といった重い手続き以外であっても、本人のニーズの変化、周囲の状況、相性などに応じて、柔軟に後見人を交代しやすくする規定が設けられます。たとえば、「最初は手続きが複雑なため司法書士などの専門職が就き、落ち着いた後は家族が対応できるようになったため家族へ交代する」といった柔軟な運用が可能になります。
⑤ 報酬体系の見直し
実際の仕事量や支援の内容に見合ったものとなるよう、報酬の在り方についても見直しが行われる見込みです。
4. 任意後見や家族信託との関係・実務への影響
家族信託や任意後見は不要になるのか?
結論から申し上げますと、不要にはなりません。むしろ、それぞれの特性を組み合わせて使うことがより重要になります。
新制度で後見が使いやすくなるとはいえ、誰をどのような条件で支援者にするかの最終的な決定権は、あくまで「家庭裁判所」にあります。一方で、「家族信託」や「任意後見」は、本人の判断能力があるうちに、自分自身の手で自由に設計できる制度です。
今後は、以下のようにそれぞれの強みを活かしたハイブリッドな備え方が、現実的な選択肢として広がっていくと考えられます。
財産の積極的な管理・運用・家族への承継は「家族信託」に任せる
医療・介護・身の回りの契約(身上保護)は「任意後見」や「新制度の後見(補助)」を活用する
なお、今回の改正では任意後見制度についても見直しが進められています。任意後見契約を結んでいても、本人の判断能力低下後に「任意後見監督人」の選任申立てがされず、制度がスタートしないケースがあるため、「適切な時機の監督人選任を確保する方策」など改善が図られる見込みです。
専門職(司法書士・弁護士等)への影響と選び方
制度が柔軟になるということは、選択肢や組み合わせが増え、より個別の「オーダーメイド化」が進むことを意味します。これにともない、実務家には後見の申立てを検討する段階から、個別具体的な利用形態の構想を描く高いコンサルティングスキルや、正確な実務知識が必要とされます。
具体的には、実務において以下のような変化が予想されます。
受任期間: 終身ではなく、必要な期間に限定される可能性
権限の範囲: 個別に権限を定める方式になり、後見登記の権限内容もより詳細になる可能性
報酬: 報酬体系の見直しが行われる可能性
そのため、今後は「新しい後見制度のもとで業務を行っていない法律専門職」への依頼は避けるべきであり、新制度はもちろん、家族信託や任意後見にもすべて精通した、信頼できる専門職を選ぶ重要性がこれまで以上に増していきます。
家裁の手続き長期化や滞留リスク(制度の「影」)
今回の改正はメリットが多い反面、懸念される「影」の部分もあります。
一人ひとりに合わせて細かく権限を設定するオーダーメイド化により、1つの申立てに対する裁判所の審理ボリュームは格段に増加します。そのため、後見人が選任されるまでの審判日数が今以上に長期化する懸念があります。また、選任後に家庭裁判所が行う監督事務(書記官などの負担増)が滞留し、新制度の施行直後は現場でしばらく混乱が続くのではないかと危惧されています。
5. 今後のスケジュールと今からできること
改正のスケジュール(これまでと今後)
2024年4月〜: 法制審議会民法部会で審議開始
2025年6月: 中間試案の取りまとめ、パブリックコメント(意見公募)
2026年1月27日: 改正要綱案の取りまとめ
2026年通常国会: 民法改正案を提出(4月3日に閣議決定・衆院提出済)
成立後: 2028年頃(2028年夏〜秋頃)に施行見込み
現在・これから対策を検討している方の対応
今回の法改正は、基本的に「新規の申立て」から適用される見込みです。すでに現行法で後見を利用している方への経過措置(新制度への移行ができるかなど)については、今後の法案審議の中で明らかになります。
そのため、今すぐ後見制度を利用しなければならない事情がある方は、現行法のルールで進めるしかありません。ただし、将来的に途中終了できる可能性が残されていることを念頭に置いておくと良いでしょう。
そして、時期にかかわらず最も重要なのは、「元気なうち(判断能力があるうち)の準備」です。認知症などが進行し、完全に判断能力が低下した後は、家族信託も任意後見契約も結ぶことができなくなってしまいます。
まだ元気で意思表示ができるうちに、以下の対策を比較・検討しておくことが最善の備えとなります。
任意後見契約の検討: 判断能力があるうちに、将来だれに後見人になってほしいかを自分で決めておく
家族信託の活用: 自宅の売却や預金凍結対策など、財産管理について柔軟な設計を行っておく(これまで「家族信託の方が勝る」とされていた自宅のスムーズな売却や預金凍結対策の優位性は、後見制度の負担軽減により差が縮まる可能性もありますが、自由度の高さは依然として大きなメリットです)
遺言書の作成: 自分の亡き後の資産配分(相続対策)として備えておく
6. まとめ
成年後見制度の改正案が閣議決定され、2028年頃(2028年夏〜秋頃)の施行が見込まれている。
現行の3類型が「補助」へ一本化され、必要な期間だけスポット利用できる「終わりのある後見」などオーダーメイド化が進む。
後見人の交代が柔軟になり、任意後見や家族信託との組み合わせが明確に推進される。
ただし、家庭裁判所の手続き長期化や滞留リスクといった「影」の側面もあるため、元気なうちに自分で自由に設計できる「家族信託」や「任意後見」の重要性は変わらない。
選択肢が増えて判断が複雑になるため、実務に精通した専門家への相談がこれまで以上に重要になる。
当事務所では、相続・後見・信託を専門に取り扱っています。そのため、成年後見に関するご相談はもちろん、任意後見や家族信託との比較・最適な組み合わせのご提案を承っております。「わが家の場合はどの制度を選ぶべき?」とお悩みの方は、ご状況に合わせた最適解を一緒に見極めますので、どうぞお気軽にご相談ください。
詳しく知りたい方へ(出典・参考)法務省ウェブサイト:法制審議会民法(成年後見等関係)部会にて、議事録や配布資料などの詳細な議論の経過が公開されています。

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